Liner notes: blue By Masakazu Kitanaka

HaLoは東京在住の歌手/作詞家/作曲家/編曲家/写真家ayakoの声と言葉を中心に生まれた開かれたプロジェクトです。そこにはayakoと夢を共有できるさまざまな人たちが流動的に関わっており、ayakoはそれを「ゆるやかな集合体」と語っています。

色彩をモチーフに『ブルー』『イエロー』『グリーン』3枚のアルバムを世界各地の人たちと一緒に作るというのがHaLoの構想のはじまりでした。1998年にayakoとプロデューサーの藤井暁は、無数のEメールや電話やファックスと格闘して、友人たちと打ち合わせしながら、さらなる協力者を求めて地球を裏側まで駆け巡り、数多くの賛同者と出会いました。レコーディングは主にその年の暮れから1999年3月にかけて、東京(日本)、ロンドン(イギリス)、ヘルシンキ(フィンランド)、ドノスティア (バスク)、クアラルンプール(マレイシア)などで行なわれました。そしてまず出来上ってきたのがこの『ブルー』というわけです。

国境を越えたアーティスト間のコラボレーションはけっして珍しくありません。しかし曲作りの段階からアイデアを綿密に交換し、それを想像力で縦横無尽に膨らませたこのアルバムは、お仕着せの企画や拙速なセッションで作られたものとは根本的にちがっています。日本のアーティストが陥りがちな模倣と敬意の混同とも無縁なら、着地先のない無国籍音楽をめざしたわけでもありません。アクースティックな楽器を中心にした透明感のある繊細な演奏とayakoの優しい歌には、上質のポップ・スタンダードのみが持ちうる親しみやすさや落ち着きが感じられます。

まっすぐで、柔らかくて、軽やかで、せつなくて、なつかしい……この音楽を聞いてぼくが思い浮かべたのは、初夏の夜明けの空の下で見る草木の幻想的な美しさでした。それはアルバムに関わった人たちが自分の中に自然を、そしてそれを感知する能力を持っているからでしょう。かわいた体においしい水がしみこんでくるように、このアルバムの音楽は心にしみます。音楽が自己顕示や自己憐憫や技術や商品である前に、人々の心と体をむすぶ波動から生まれてくるものであることをこのアルバムは思い出させてくれます。

最後に、主要参加メンバーについて、曲解説でふれられていないことを一言ずつ紹介しておきましょう。ティモ・アラコティラはトラッド・フィドル・グループJPPをはじめ4つのグループのレギュラー・メンバーとして活躍しているフィンランドのピアニスト/ハルモニウム奏者。フィンランドを代表するアコーディオン奏者の一人マリア・カラニエミのグループのメンバーでもあります。ルイ・フィリップはイギリス在住のアーティストで、日本でも80年代から数多くのアルバムが紹介されています。デイブ・グレゴリーは元XTCのメンバーとして、ダニー・カミングスとアラン・クラークは元ダイア・ストレイツのメンバーとして、ケイト・セント・ジョンは元ドリーム・アカデミーのメンバーとして、UKロックのファンにはそれぞれおなじみです。S・アタンは東/東南アジアの音楽界で活躍しているマレイシアのアコーディオン奏者/プロデューサー。ボブ・ブロズマンはカリフォルニア在住のギタリスト/ハワイアン研究者で、沖繩の平安隆との共演盤が最近国際的に話題を呼んでいます。モドゥ・セックはドイツ在住のセネガル人打楽器奏者。松浦有希、吉川忠英、駒沢裕城、松永孝義、土屋玲子は東京のスタジオやクラブで多忙な毎日を過ごしている作曲家、編曲家、ミュージャンです。

2000年6月 北中正和